なんでもかんでも説明すればいいわけではない

施術で大切にしたいのは、答えを一方的に渡すことではなく、
お客さん自身が自分の身体に気づいていく時間を一緒に作ることです。
施術中にいただく質問について
施術をしていると、お客さんからいろいろな質問をいただくことがあります。
- どうして痛みが出ているんですか?
- この症状の原因は何ですか?
- 私はどうしたら良くなりますか?
- 今の身体は、どういう状態なんですか?
もちろん、聞かれたことには丁寧に答えたいと思っています。
不安を少しでも減らしたい。
今の身体の状態を、できるだけ分かりやすく伝えたい。
自分の身体に対して、少しでも安心してもらいたい。
そう思って、施術の中で説明をすることがあります。
ただ最近、ひとつ大切なことに気づきました。
なんでもかんでも説明すればいいわけではない。
大切なのは、答えをすぐに渡すことではなく、
その方が自分の身体に気づける余白を残すことだと思っています。
答えを言いすぎると、学びを奪ってしまうことがある
施術者側から見ると、身体の状態や、緊張のつながり、痛みが出ている背景が見えることがあります。
だから質問されると、つい答えを伝えたくなります。
「ここがこうなっているからです」
「身体はこういう反応をしています」
「だから、こう考えるといいですよ」
もちろん、それが必要な場面もあります。
でも、答えをすぐに渡しすぎると、お客さん自身が考える時間がなくなってしまうことがあります。
答えを聞いたその瞬間は、
「なるほど」
「そうなんですね」
と思うかもしれません。
でも、自分で考えて、自分の身体と照らし合わせて、自分の中で気づいたことではない場合、その言葉は深く残りにくい。
場合によっては、施術者が答えを言いすぎることで、
その人が自分の身体から学ぶ機会を奪ってしまう
こともあるのだと思いました。
本人も、本当はうすうす気づいていることがある
身体の不調について話を聞いていると、答えそのものは、本人もどこかでうすうす気づいていることがあります。
たとえば、
- 無理をしていること
- 不安が強くなっていること
- 仕事のストレスが身体に出ていること
- 食生活が乱れていること
- お金の不安で休まっていないこと
- 子育てで、自分のことが後回しになっていること
- いつも気を張っていて、力が抜けないこと
こういうことは、本人もまったく分かっていないわけではありません。
どこかでは気づいている。
でも、正面から向き合うのは少し怖い。
気づいてしまうと、何かを変えないといけない気がする。
だから、なんとなく見ないようにしている。
そういうこともあります。
その時に、こちらが一方的に答えを押しつけると、反発が起きることがあります。
でも、本人の中にすでにある答えを、そっと一緒に確認するように言葉にできた時は、
「やっぱり、そうですよね」
「自分でも、本当は分かっていました」
「でも、見ないようにしていました」
と、学びになりやすい。
この違いは、とても大きいと思っています。
ある方との施術の中で
たとえば、肩こりや頭痛で来られた方がいたとします。
首や肩を見ていくと、確かに強い緊張があります。
でも、身体全体を見ていくと、呼吸も浅く、背中も硬く、全身に力が入っている。
話を聞いていくと、仕事も忙しい。
家に帰れば家族のことがある。
子どものことを優先して、自分の時間はほとんどない。
休む時間も少ない。
それでも、その方はこう言います。
でも、みんなこんなものですよね。
私だけが大変なわけじゃないですし。
休むほどではないと思うんです。
頭では、そう考えている。
でも、身体はずっと力が入っている。
休まっていない。
安心できていない。
その時に、すぐに
「それは無理しすぎですよ」
「もっと休んだ方がいいですよ」
と答えを出すこともできます。
それが間違いというわけではありません。
必要な時もあります。
でも、その言葉だけでは、相手は
「そうですよね」
と笑って終わってしまうかもしれません。
だから、少しだけ問いを返してみます。
今の生活の中で、身体が休まる時間はありますか?
頭で大丈夫と言っている時、身体は本当に大丈夫そうですか?
もし大切な人が同じ生活をしていたら、何と言ってあげますか?
すると、その方は少し黙ります。
そして、
たぶん、休んだ方がいいよって言います。
自分でも、本当は無理していると思っていました。
と話されることがあります。
この時、答えは最初からこちらだけが持っていたわけではありません。
本人の中にも、すでにあったのだと思います。
ただ、言葉になるまで、向き合えなかっただけ。
施術者がすることは、正解を押しつけることではなく、
その方が自分の中にある答えに気づけるように、
一緒に考えることなのだと思います。
説明することより、考える余白を守ること
質問をいただいた時、すぐに答えを出すことが親切な時もあります。
- 不安が強い時
- 身体の状態を知ることで安心できる時
- 今後の方針を共有する必要がある時
- 注意した方がいいことがある時
そういう時には、きちんと説明します。
ただ、すべての質問に対して、すぐに答えを渡せばいいわけではありません。
時には、
- ご自身では、どう感じていますか?
- 何か思い当たることはありますか?
- その痛みは、どんな時に強くなりますか?
- 楽な時とつらい時で、何か違いはありますか?
と、一緒に考えることの方が大切な場合があります。
答えを聞くだけだと、人は受け身になりやすいです。
でも、自分で考えて、自分の言葉で気づいたことは、身体にも心にも残りやすい。
だから、説明しないことが不親切なのではなく、
あえて説明しすぎないことで、その人の気づきを守る
という関わり方もあるのだと思います。
言葉は、相手の準備に合わせて渡す
言葉には、力があります。
たった一言で安心することもあれば、
たった一言で反発が起きることもあります。
同じ言葉でも、受け取る人の状態によって届き方は変わります。
まだ向き合う準備ができていない時に、深い言葉を渡しすぎると、重く感じることがあります。
反対に、その人が本当に向き合おうとしている時には、少し深い言葉が必要になることもあります。
本人がうすうす気づいている。
でも、まだ言葉にできていない。
今なら向き合えそうな状態にある。
そういう時は、こちらが言葉にしてあげることで、学びが深まることがあります。
大切なのは、何を言うかだけではありません。
- 今、その人にとって、その言葉が必要なのか。
- その人は、その言葉を受け取れる状態にあるのか。
- こちらは、その言葉を上からではなく、一緒に考える姿勢で渡せているのか。
そこを見ながら、言葉を選ぶことが大切だと思っています。
自分が完全にできていなくても、伝えた方がいい言葉もある
もうひとつ、大切にしたいことがあります。
それは、
自分が完全に体現できていないことは、何も言ってはいけない
というわけではない、ということです。
人に優しくすること。
無理をしすぎないこと。
身体の声を聞くこと。
不安と向き合うこと。
執着を手放すこと。
こうしたことは、言葉にするのは簡単でも、完全に体現するのはとても難しいものです。
もし、完全にできている人しか伝えてはいけないのなら、ほとんどの人は何も言えなくなってしまいます。
だから、自分も学びの途中であっていい。
ただし、その時に大切なのは、言い方です。
私も学びの途中ですが、身体を見ていると、ここが大切に感じます。
そんな姿勢で伝えること。
上から正解を渡すのではなく、
一緒に考えるために言葉を置く。
相手がちゃんと向き合って学ぼうとしている時には、
自分が完全に体現できていない言葉でも、必要なら伝えた方がいい場面もあると思っています。
施術は、答えを渡す場所ではなく、一緒に気づく場所
整体は、施術者が一方的に身体を変えるものではないと思っています。
もちろん、施術によって身体の緊張がゆるんだり、動きが変わったり、痛みの感じ方が変わったりすることはあります。
でも、本当に大切なのは、その後です。
- 自分の身体は、どんな時に力が入るのか。
- どんな時に痛みが強くなるのか。
- どんな時に呼吸が浅くなるのか。
- どんな生活や考え方が、身体に影響しているのか。
- 身体が楽になる時、自分の中で何が変わっているのか。
そういうことに、少しずつ気づいていく。
その気づきがあるから、施術の変化がその場だけで終わらず、日常の中にもつながっていくのだと思います。
だから私は、これからの施術の中で、ただ答えを伝えるだけではなく、
一緒に考える時間
をもっと大切にしたいと思っています。
必要な言葉を、必要な分だけ
なんでもかんでも説明すればいいわけではありません。
説明が必要な時は、きちんと説明する。
でも、説明しすぎないことも大切にする。
答えをすぐに渡すことで、安心につながることもあります。
でも、答えを渡しすぎることで、その人自身の学びや気づきを奪ってしまうこともあります。
説明することだけではなく、一緒に考えること。
答えを渡すことだけではなく、自分の身体に気づく余白を残すこと。
深い話をたくさんすることではなく、今必要な言葉を、必要な分だけ伝えること。
施術を通して、身体が楽になるだけでなく、
自分の身体との向き合い方も少しずつ変わっていく。
そんな時間を大切にしていきたいと思っています。